[25]親戚の気持ち
父を火葬した次の日の夕方、実家を訪れますと驚くことが起こっていました。
父は5人兄弟の2番目で、兄がひとり、弟がひとりと妹がふたりおります。父が87歳ですので兄弟妹も高齢です。コロナの感染者数も日に日に増え続けて衰える兆しは見えません。そのような状況でしたので、葬儀は行わず、ひっそりと母と兄とわたしの3人でお別れした次第です。
もちろん亡くなった日に親戚には電話で報告し、葬儀を行わないこと、お香典などはお断り申し上げたいことを伝えました。
しかし、父の妹家族が4人揃って実家へ来てしまったのです。ちょうどわたしも兄もいないときでした。母はずっと食欲がなく寝込んでいる状態で、支えなしにひとりで歩けないにもかかわらず、その家族を迎えるために近所の店まで香炉と線香を買いに出かけたそうです。
母は疲れ切っており、昼間あった出来事をわたしにしている間も、身体を起こしていられずベッドに横になっていました。
わたしは猛然と腹を立てていました。どうして分かってくれないのだろう? こんなに弱っている母のところに押しかけてくるなんて!
けれど、頭を冷やして落ち着いて考えてみると、もしもわたしの兄が結婚して家族を持っていたとして(実際には未婚でひとりものですが)、兄が亡くなり奥さんと子供で勝手に火葬してわたしにお別れをさせてくれなかったら? そう考えた瞬間、背筋が寒くなりました。
「わたし、何てことしちゃったんだろう!!」
父は脳梗塞を発症したあとから、ひとりでは何もできず、亡くなる直前は用足しも母が手伝い、まるで母の子供のようになっていました。そのような状態だったことを親戚たちは詳しく知りません。なので、父を家族だけの存在だと間違って認識してしまっていたのです。父はわたしたちだけのものではありませんでした。誰かの兄であり、弟であり伯父であったのです。どうしてそんなことに気がつかなかったんだろう? 父が亡くなって、まるで台風のように慌ただしく時間が流れて、物事を深く考えることができなかったのです。
会いたかっただろうな……。本当にごめんなさい……。
その後、伯父や叔母から母宛にお悔やみの電話がかかってきたときに、勝手に葬儀を進めてしまったことについて直接謝りました。
伯父、叔母はみな「こちらも年をとって、とても行かれなかった。詫びることなどない」と言ってくださいましたので、少し気が楽になりました。
しかし、母は高額なお香典の入った封筒を手にして肩を落としています。
「こんなにたくさんいただいちゃって、お返しはどうしたらいいの?」
父方の親戚は、父以外は皆とてもとても裕福なのです。叔母も初めて両親が暮らしている都営住宅を訪れてさぞ驚いたことでしょう。
何不自由のない暮らしをしている親戚たちに、いったい何を贈ればよいのでしょう?