87歳の父、余命1ヶ月と言われてからの奔走

80代の両親と、これからのこと奮闘中!

[13]母の散髪

朝、母に電話すると、咳が続いて食欲がないと言います。こんなとき、料理上手だったら、ササっとおかずを作って持っていくことができるのに、と悔みます。

 

ここ最近、実家へ通い詰めて、仕事がまったく捗りません。夜中まで仕事をしているので睡眠不足で頭も働きません。実家へ向かう電車の中で、病人食が買える場所を検索していたら、うっかり乗り過ごしてしまいました。

 

戻る電車はなかなか来ません。ホームで待っている間に、だんだん腹が立ってきて、「本人が食べたくないと言っているのだから、無理に食べさせる必要があるんだろうか? 何をしても無駄なんじゃないか?」と、父のことも重なって頭の中がぐちゃぐちゃになってきました。

 

先日読んだ本に、「頑張りすぎは周囲の人に迷惑」というのがあり、自分の気持ちが平常心でいられないほど頑張ると、相手に不機嫌な態度をとってしまうので、結果的に迷惑であるということでした。わたしは実家のドアの前で深呼吸をして、口元に笑顔を作ってから中へ入りました。

 

母はスーパーで買って行ったカットスイカや焼き芋やサンドウィッチを、意外なほどよく食べました。目の前に用意してあげれば食べるようです。

 

それから、髪が伸びて邪魔なので切って欲しいと頼まれました。わたしは自分の前髪以外、人様の髪など切ったことがありません。恐る恐る、少しずつハサミを入れると、母はどんなになってもいいからもっとジョキジョキ切ってくれと言います。思い切って切ってみると、とても直視できないほど変になってしまいました。

 

わたしは母を説得して、一番近くにある古い小さな美容院に連れてきました。母は「短く短く切ってください」とオーダーし、わたしはお店の片隅で待っていました。終わると、母の頭はまるで大工さんのようになっていました。ごま塩の白髪頭が短く刈り上げられています。それでも本人は「スッキリしたわー」と嬉しそうです。

 

美容院からの帰り道に母が「自分ひとりだけだったら、気力がなくて行かれなかった。どうもありがとう」と言ってくれました。

 

そのことばに、涙が出そうでした。

本当によかった。