87歳の父、余命1ヶ月と言われてからの奔走

80代の両親と、これからのこと奮闘中!

[8]父の定期預金解約

父が入居することになっている施設は、月々30万円近くかかります。

両親は長く自営で小さな小売店を営んでいて、団地住まいで大きな蓄えはないはずです。わたしはこの金額を兄とふたりで負担することになると覚悟し、もし余命が伸びて一年生きたら、、、と考えると足が震えました。

 

ずっと節約し、高級なものは一切買わず、質素に暮らして来た両親でしたが、幾ばくかの貯金があることがわかりました。父の郵便貯金の定期預金にです。それで1年くらいは賄えそうな金額でした。

 

そして、はたと気付きました。

本人不在で定期預金って解約できるの?

 

調べてみると、委任状があれば解約して普通預金へ移動できるようです。入院している父から委任状にサインをもらうことができるのでしょうか?

 

無駄だと思ったのですが、実家からの帰り道に父の入院している病院がありましたので、試しに受付で相談してみますと、直接病棟へ行って担当看護師に相談するように言われました。

 

忙しい看護師さんにそのようなことを頼むのは気が引けてしまい、かと言って委任状がもらえるならありがたいことだし、と、迷いながら病棟へ向かいました。

 

委任状にサインをもらうことが可能か尋ねますと

「やってみてもいいですけど、字、書けないと思いますよ」と言われます。

そうですよねぇ。入院前だってほとんど書けなかったのに。

 

それでもお願いすると、看護師さんは仕方なさそうに委任状の用紙を受け取り、病室の方へ向かいました。しばらく待合所で待っていると、看護師さんから委任状を渡されました。

 

名前の欄に、父の字で名前が書かれていました。確かにひどい字だったけれど、ミミズが張ったような字だったけれど、父が書いたもの。たった今、父が自分の手で書いた名前なのだと思ったら、気持ちが高まり涙が溢れてきました。ほんの数メートル先に父がいる。入院以来会えない父。父に会いたいと強く思いました。

 

それを持ってまた実家に戻りました。

 

戻る途中、自分はずっと父が母より先に逝ってくれればいいと願っていたのではなかったか。ここで涙を流すのは善人ぶった行為では?

 

そう思っているのに、あとからあとから涙が溢れてくる。

 

この、ミミズの這った文字に心を動かされるのは、この世でたった三人。母と兄とわたしだけ。この気持ちを共有できるのは家族だけ。